あんなことを思い出したのは、アイツの左手の薬指に、プラチナの輝きを見つけてしまったせいだ。
――指輪――
昔、アイツはオレからもらうものなら何だって、それだけで嬉しい、と言っていた。
気まぐれにオレがほら、と無造作に渡したプルトップだって指にはめて
「ゆびわー!」
と、大騒ぎしていたっけな。
それこそ、零れ落ちてしまいそうなほど大きい目を見開いて、頬を紅潮させて。
そんな様子がおかしくて、オレは
「もっと大きくなったら、ぴったりしたやつを買ってやるよ。」
なんて言ったんだっけ。
…まさか、アイツ、本気でずっと待っていた、なんてこと、ないよ、な。
だとしても、万が一、そんなことがあったとしても…今となってはオレには何もできない。
どうしてだろう。
最近、やけにあの頃のことが浮かんで来るんだ。
ずっと、思い出しもしなかったようなことが。
何ていうんだ?こういうのって。
感傷的?
柄でもない。勘弁してくれよ。
病めるときも、健やかなときも――。
アイツのことだから、こうと決めたら、あとは突き進んでいくんだろう。
あの男と。
それにしても。
今後オレが誰かに指輪を買ってやることがあるとしたら。
そのときも、アイツのことを思い出すんだろうな。
そう思うと、少し癪に障る、かな。まるでオレが未練がましい男みたいだろう?
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